短編 | ナノ


▼ 五伏


※布施→五島描写があります



「もう俺に仕事以外で話しかけるな」

そんなことを伏見さんに言われたのは突然で、いつものようにちょっかいをかけに行ったときだった。仕事を終わらせ定時に上がろうとして、そういえば今日は伏見さんに構ってなかったな、と伏見さんを探し出して背後から抱き着いた。最初はこれも嫌がられていたが最近では何も言わなくなっていた。なのに。

「そんなに抱きつかれるの嫌でしたかー?」

それとも、放置プレイしたのがいただけなかったのだろうか。そこはまあまあ忙しかったので許して欲しい。にこりと笑いながら伏見さんの顔を下から覗きこめば、そこにはいつもとは違う冷めきった目で僕を見る伏見さんがいた。
いや、正確には僕を視ていない。その目に苛立った僕は、きちんと立ち上がり、伏見さんの顔をこちらに向けた。するとその手も思い切り叩かれ、睨まれた。

「…触るな」
「どうしたんですか。」
「別にどうもしてないけど。ただ、アンタのことがウザくなっただけ。」
「……」

うわ、今のは流石に傷ついた。やっぱりウザがられていたのか…そんでこうなるなんて相当だ。だけどそれを顔に出してやるのも癪に障るのであくまでポーカーフェイスで、出来ているかわからないけど、ヘラ、とわらった。

「…そうですか。」

それだけ言って伏見さんの元から立ち去る。ちょっと色んな気持ちでごちゃごちゃしてしまってなんだか無性にそのへんの何かを蹴り飛ばしたくなった。




これでよかったんだ。
俺の中では納得がいっている筈なのに、何故かさっきからモヤモヤして気持ち悪い。
あいつの、俺の言葉を聞いた瞬間の傷ついたみたいな顔、本当に一瞬だったけど、初めて見た。
あいつがあっさり立ち去って、引き留めようとした自分がいた。
なんなんだよ。昨日無駄な馴れ合いはしないって決めたのに、あいつの顔を見たくらいでなんで気持ちが揺らぐんだよ。

「クソッ……」



部屋に帰ると、既に帰っている日高がおかえり!と声をかけてきた。そこにはいつものことだが、布施と榎本も遊びにきていて、制服のジャケットをハンガーにかけたあと、僕もその輪の中に入った。

「お!お前もメロンパンナちゃんのほうが可愛いと思うよな!?」
「何の話?それ」
「いや、なんとなく話の流れがアンパンマンの中で誰が一番可愛いか、っていう話になって」
「んふふ、公務員がする話じゃないねぇ」
「僕もそう思ったんだけど…なかなか二人共ドキンちゃんの良さに気付いてくれないからさあ」
「エノはわかってないなぁ。バタコさんの良さに気付けないなんて…」
「ぶっ…バタコさん?日高熟女とか人妻好きとは分かってたけど守備範囲広すぎでしょ…」

僕が笑い転げていると日高が少し顔を赤らめた。いやなんでそこで照れるの意味わかんない。布施と榎本は先程そのことで笑い転げ済んだらしく、バタコはないな、と2人でほくそ笑んでいた。

「そういうゴッティーは誰がいいんだよ?」
「え、僕?うーん」

小さい頃に見ていたときはバイキンマンが好きだった。悪役になりきれない憎めない悪役。でも可愛いとはちょっと違う。女の子のキャラで可愛いキャラなんてあまり考えたことがなかったけど…あ。

「ロールパンナちゃんかなぁ」
「あーいたねぇ」
「誰だっけそれ」
「メロンパンナちゃんのお姉ちゃんだよ。ほら、あの悪者になったり味方になってくれたりする」
「あー!元祖小悪魔系女子じゃん!」
「なんだよそれもう笑わせんなよ」

ロールパンナちゃんってなんか、伏見さんに似てる気がするんだよなあ。いや、伏見さんの方がもちろんツンの割合多いけど。

「ゴッティーってそういうちょっとワルな感じのタイプ好きだよね」
「そう?」
「ああなんかわかる!好きな女優も沢尻〇リカだろ?意外だよなー。もっとふわふわしてるのが好きそうなのにな」
「あーまあ確かに…」
「実際に好きになる女の子とかもそんな感じなの?」

エノにそう訊かれて考えて頭に思い浮かぶのはやっぱり伏見さんで。確かにそうかもしれない。伏見さんが別に…って言うのすごく似合う。似合う。

「うん。そんな感じ」
「へぇー。俺は長澤ま〇みが好きだけどな!」
「あー超好きそう日高キモいー」
「なんだよそれ!」






しばらくして日高とエノがつまみを買いに行くとか言って二人で出かけて行った。室内に残ったのは布施と僕だけで、何故かいつもベラベラ話す布施が今日に限って無言で、なんだか調子が狂ってしまう。
さっきも好きな女優の話からは話に加わってこなかったし、何かあったのだろうか。

人の心配もしているが自分も自分で今日の伏見さんの様子を思い出して項垂れていた。僕が何かしてしまったのだろうか…心当たりは有り過ぎるのだけど決定的に嫌がるようなことはしていなかったはず…

「「ハァ……」」

不意に布施と溜息が重なった。タンマツをいじる指を止めて顔を上げると同じようにカップラーメンを食べながら顔を上げて僕の顔をジト、と見ている布施がいて、その顔に吹き出しそうになった。
吹き出したら怒られるのは確実なので、それを堪えて、何かあったの?と聞いてみた。

「んふふ、今日布施元気なくない?なんかあったの」
「別にー。」

それだけ言ってズルズルとカップラーメンを啜る。いや、絶対なんかあった。
無性に聞き出したくなって、タンマツを放り投げて布施の隣へ這っていった。

「うわ早!!何!?動き気持ち悪いんだけど!」
「どうしたの。なんかあったでしょ?」
「う…何でもないって言ってるだろ。」
「嘘つかないで。僕が分からないと思うの?」
「……」
「僕には話せない悩みなの…?僕布施の力になりたい…話すだけでも楽にな…」

る、と言いかけた時、布施が僕を押し倒して馬乗りになった。やばい、そんなに怒らせてしまったのだろうか、と布施の顔を見れば、どうやら怒ってるわけではないようで、酷く傷ついたような顔で、耳まで赤かった。

「え、」
「…んなんだよ…お前」
「布施」
「なんでお前のことで俺がごちゃごちゃ悩まねーといけねーんだよ…クソ…」
「あの、これは?」
「布施大輝は!五島蓮のことが!好きです!」
「タッちゃん…」
「ちげーよ!真面目に聞けよ!」
「だってそのセリフを期待してると思って…ていうか、え?なにこれどっからどこまで本気なの?」
「全部だよ馬鹿!俺はお前のことが好きなんだよ!」

布施の顔がめちゃくちゃ赤いのであながち嘘ではないのだろう。僕の肩口に顔を埋めて恥ずかしいもうやだ、と呟く布施。不覚にも可愛いなんて思ってしまった。

「でもお前は伏見さんのことが好きなんだろ…」
「うん…」
「だから諦めようと思ってたのにさあお前なんなのマジで」
「ご、ごめん」

謝るなクソ、と呟いて顔を上げる布施。目が合ってドクリと鼓動が高鳴ったのがわかる。真剣な布施の目から、目を離すことができない。

「伏見さん諦めて、俺にしとけよ」

そう言って僕にキスをする布施。どこのドラマのシーンだよ、とか日高とエノが帰ってきたらどうしよう、だとかいつもならそんな考えがよぎるのに、何も考えられないくらい、頭がごちゃごちゃだった。






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